プログラム開発/Development of program packages
フェルミ面描画プログラム「FermiSurfer」
金属の物性に大きな影響を与えるフェルミ面は、その形状だけでなくフェルミ面上での種々の量の変化(超伝導ギャップやフェルミ速度、軌道の混成など)が重要となる場合が多い。
そのような量の可視化のために作られたのがこのプログラムである[1]。
また、極軌道や断面、フェルミ面上のベクトル量の表示にも対応している。
- FermiSurfer: Fermi-surface viewer providing multiple representation schemes
M. Kawamura,
Comp. Phys. Commun 239, 197 (2019);
arXiv:1811.06177.
高精度ブリルアン領域積分法の開発と汎用第一原理計算パッケージ「Quantum ESPRESSO」
固体中の電子状態計算においては多くの場合、ブリルアン領域内のすべての占有(または非占有)準位からの寄与を積分する(k-積分)というプロセスがあり、
これは数値計算の精度を左右するステップになる。
通常のDFT計算では計算コストは離散的に取ったk点数に比例して増大し、
さらにハイブリッドDFT計算やGW法の計算コストはk点数の2乗に比例するため、いかに少ないk点で精度よく数値積分を行うかが重要となる。
金属ではフェルミ面上で不連続に変化する占有率を精密に取り扱うために、ブリルアン領域を四面体で分割してそれぞれの四面体内部で軌道エネルギーを線形補間し、
この不連続な変化を解析的に取り扱うテトラへドロン法という計算手法がとられてきた。
このテトラへドロン法は線形補間を用いるために、凸関数を系統的に過大評価するという欠点があり、
これがk点数に関する誤差の収束を悪くする要因を生んでいた。
我々は多項式補間と最小二乗法を用いた補正付きのテトラへドロン法を開発し、
このk点数に関する収束を大幅に改善した[2]。
この手法は基底状態のDFT計算だけでなく線形応答・フォノン計算にも適用可能であり、
そのような計算を行うために第一原理計算プログラムパッケージ Quantum ESPRESSOに実装を行った [3]。
-
Improved tetrahedron method for the Brillouin-zone integration
applicable to response functions
M. Kawamura, Y. Gohda, and S. Tsuneyuki,
Phys. Rev. B 89, 094515 (2014);
arXiv:2203.15648.
- Advanced capabilities for materials modelling with Quantum ESPRESSO
P. Giannozzi, O. Andreussi, T. Brumme, O. Bunau, M. Buongiorno Nardelli, M. Calandra, R. Car, C. Cavazzoni,
D. Ceresoli, M. Cococcioni, N. Colonna, I. Carnimeo, A. Dal Corso, S. de Gironcoli, P. Delugas, R. A. DiStasio Jr,
A. Ferretti, A. Floris, G. Fratesi, G. Fugallo, R. Gebauer, U. Gerstmann, F. Giustino, T Gorni, J Jia, M. Kawamura,
H.-Y. Ko, A. Kokalj, E. Küçükbenli, M. Lazzeri, M. Marsili, N. Marzari, F. Mauri, N L Nguyen, H.-V. Nguyen,
A. Otero-de-la-Roza, L. Paulatto, S. Poncé, D. Rocca, R. Sabatini, B. Santra, M. Schlipf, A. P. Seitsonen,
A. Smogunov, I. Timrov, T. Thonhauser, P. Umari, N. Vast, X. Wu and S. Baroni,
J. Phys.: Condens. Matter 29, 465901 (2017);
arXiv:1709.10010.
強相関多体模型ソルバー「${\mathcal H}\Phi$」と「mVMC」
拡張ハバードモデルなどの強相関電子モデルの数値計算手法はいくつか存在し、それぞれ一長一短がある。
厳密対角化法は多体系のすべての数状態を基底としてハミルトニアンを構成し、ランチョス法などの反復固有値解法でエネルギー低い固有状態を計算する方法であり、
問題サイズが強く制限されるが計算条件の恣意性がないため他の手法の検証としても使われる。
一方で多変数変分モンテカルロ法は変分波動関数の恣意性を変分パラメーターを多くとることにより緩和するもので、
より大きなサイズの問題を負符号問題なしに解析できる。
厳密対角化法(およびその有限温度版)のュレーションを行う「${\mathcal H}\Phi$」[4, 5]と、
多変数変分モンテカルロ法プログラム「mVMC」[6]はインターフェースを共通化しており、厳密対角化で対応可能なサイズから、
対応不可能な大きなシステムサイズへと変えながら両者の結果をシームレスに比較しつつ計算を行うことができる。
- Quantum lattice model solver ${\mathcal H}\Phi$
M. Kawamura, K. Yoshimi, T. Misawa, Y. Yamaji, S. Todo, N. Kawashima,
Comp. Phys. Commun. 217, 180 (2017);
arXiv:1703.03637.
- Update of ${\mathcal H}\Phi$: Newly added functions and methods in versions 2 and 3
K. Ido, M. Kawamura, Y. Motoyama, K. Yoshimi, Y. Yamaji, S. Todo, N. Kawashima, T. Misawa,
Comp. Phys. Commun. 298, 109093 (2024);
arXiv:2307.13222.
- mVMC Open-source software for many-variable variational Monte Carlo method
T. Misawa, S. Morita, K. Yoshimi, M. Kawamura, Y, Motoyama, K, Ido, T. Ohgoe, M. Imada, T. Kato,
Comp. Phys. Commun. 235, 447 (2019);
arXiv:1711.11418.
シフト付きクリロフ法による連立方程式反復解法のための汎用ライブラリ「Kω」
$(z \hat{I} - \hat{H}) \textbf{x}_z=\textbf{b}$という連立方程式を、$z$を変えながら複数解く、
という問題設定が数多くのシミュレーションで現れる(グリーン関数の計算など)。
どのような場合に方程式1本を解く計算コストで複数の$z$についての方程式も同時に解くアルゴリズムがシフト付きクリロフ法である。
このライブラリは、そのように様々な分野でのシフト付き線型方程式の解法に用いられることを想定して作られた[7]。
- $K\omega -$ Open-source library for the shifted Krylov subspace method of the form $(zI−H)x=b$
T. Hoshi, M. Kawamura, K. Yoshimi, Y. Motoyama, T. Misawa, Y. Yamaji, S. Todo, N. Kawashima, T. Sogabe,
Comp. Phys. Commun. 258, 107536 (2021);
arXiv:2001.08707.
動的密度汎関数理論によるシミュレーションパッケージ「DCore」
動的平均場理論はブロッホ波数に依存しない局所的な相関効果を高精度に取り込むことができる計算手法であり、
密度汎関数理論に基づくバンド計算との併用が容易であり、強相関電子系の準粒子スペクトルやその温度変化を計算することができる。
このプログラムではWannier90形式のファイル入出力をすることにより、様々な第一原理プログラムパッケージとの接続を可能にしている[8]。
- DCore: Integrated DMFT software for correlated electrons
H. Shinaoka, J. Otsuki, M. Kawamura, N. Takemori, K. Yoshimi,
SciPost Phys. 10, 117 (2021);
arXiv:2007.00901.
第一原理超伝導物性計算プログラム「Superconducting-Toolkit」
唯一の公開された超伝導密度汎関数理論プログラムパッケージ。
スピン揺らぎやスピン軌道相互作用を取り入れた$T_\textrm{c}$の計算が可能。
詳しくはこちらを参照。
第一原理強相関モデル構築プログラム「RESPACK」
強相関モデル計算では計算手法とともにモデルそのものの妥当性も重要となる。
このプログラムでは制限乱雑位相近似と最局在ワニエ関数を用いた非経験的なモデル構築を行うことができる[9]。
またこれにより作られた出力ファイルを直接DCore、mVMC、${\mathcal H}\Phi$で読み込んで計算を行うことができる。
- RESPACK: An ab initio tool for derivation of effective low-energy model of material
K. Nakamura, Y. Yoshimoto, Y. Nomura, T. Tadano, M. Kawamura, T. Kosugi, K. Yoshimi, T. Misawa, Y. Motoyama,
Comp. Phys. Commun. 261, 107781 (2021);
arXiv:2001.02351.